商標法には、「類似」に関する規定がたくさんあります。「類似」は商標実務において、非常に重要な要素です。
まず、商標の役割として、「自他商品等識別機能(基本)」や「出所表示機能」という基本的な機能を発揮させるためには「出所混同防止」が重要です。そして、「類似」は、「出所混同防止」における重要な要素です。
「出所混同」の有無は「類似」のほか、「周知性」「取引実情」「使用有無」等を総合的に勘案して判断されます。
ここで、審査時等においては、「周知性」「取引実情」「使用有無」等の立証・認定には相当の労力が必要であり現実的には困難であるため、行政効率等の面から、「商標が類似であれば出所混同が生じる」として処理が進められます。
そのため「類似」という概念は重要な要素であり、商標実務においては、「類似するか否か」の判断は非常に重要となっています。
「類似」は、「商標」と「指定商品・役務」との両方の面から規定・認定されます。「類似」は、出願された商標の審査や、商標権の範囲に大きく関係してきます。
以下に「商標:同一・類似」「指定商品役務:同一・類似」および「同一範囲」「類似範囲」の関係について簡単にメモします。
◎「商標:同一」「指定商品・役務:同一」⇒同一範囲
○「商標:類似」「指定商品・役務:同一」⇒類似範囲
○「商標:同一」「指定商品・役務:類似」⇒類似範囲
○「商標:類似」「指定商品・役務:類似」⇒類似範囲
「商標の類似」とは、「同一または類似する商品・役務に使用すると需要者が出所の混同をするほど商標が似ている」というものです。
「商標の類似」は、審査、審判および訴訟等において認定・判断されます。
審査時においては、「商標の類似」は審査基準に示された一般的な基準に沿って認定・判断されます。厳しめの基準です(類似と認定・判断されやすい)。
審判時においては、「商標の類似」は審査時の一般的な基準を中心としながらも具体的な事情を汲んで認定・判断される傾向にあります。商標実務においては、類似か否かの判断(類否判断)におけるきわ(外縁)を把握するために審判における認定・判断は重要視されています。
訴訟時においては、「商標の類似」は、より具体的な事情(取引実情、商標の使用態様等)を考慮し、実際の「出所混同」の有無を認定・判断するために検討されます。
商標実務においては、審査時における「商標の類似」が基本的なものであり、この審査時において「商標の類似」を認定・判断するための一般基準が非常に重要です。
「商標の類似」における「観察」の視点・方法、「判断」における視点および「考慮」する内容を簡単に説明します。
「観察」 外観、称呼、観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察する。全体観察を中心とするが、一部分(要部)を比較することもある。
「判断」 指定商品・役務に使用した場合に先行登録商標と出所混同が生じるか否かを視点とする。
「考慮」 取引実情を考慮する。ただし、考慮されるのは一般的・恒常的な実情であり、個別の特殊・限定的な取引実情は考慮されない。
「観察」は下記視点・手法で行われます。
<<観察手法>>
<対比観察と離隔観察>
⇒実際の商取引の実態に即した観察方法
<全体観察と要部観察>
<分離観察>
u商標の外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察する。
u判断者(想定):商標が使用される商品・役務の主たる需要者層
「需要者」=「一般需要者」+ 「取引者」
u判断レベル:その他商品・役務の取引の実情を考慮し、需要者の有する通常の注意力を基準として判断
●原則、3要素の一つでも類似であれば、商標は類似すると判断され得る
●特に、称呼類似の場合、商標類似と判断される可能性高い
■ただし、近年、「称呼」一辺倒だけでなく、「外観」「観念」のウェイトが大きくなってきた。総合観察の結果、外観相違を理由に類似しないと判断される場合あり。
⇒特に「外観」のウェイトが大きくなってきた感がある。「ネットビジネス普及」が要因の一つであると考えられる。
「外観」は、「視覚を通じて認識する外形」であり、「強く印象付けられる外観」「外観の全体」に基づいて類否が判断されます。
対比する商標の外観的形状が紛らわしい場合、外観類似とされます。
「観念」は、「取引上自然に想起する意味」が認定されます。外国語においては、観念が生じない場合があります。
そして、「需要者が想起する意味がおおむね同一」か否かという視点で類否が検討されます。対比する商標から生じる意味・内容が紛らわしい場合、観念類似となります。
「称呼」は、「取引上自然に認識する音」が認定され、「不自然な称呼」は生じないと規定されています。また、2段書き商標等における振り仮名についても同様で、振り仮名に限定されず、自然な称呼も同時に生じるとされています。
「称呼」における類否は、「音質」「音量」「音調」「音節」等の要素について近似する箇所を認定し、全体として印象が紛らわしいか否かを基準に判断されます。「称呼類似」については、基準において詳細に記載されています。
「称呼」についての検討要素を簡単に整理すると下記のような感じになります。
「結合商標」は、主に2以上の語が組み合わされた商標であり、「類似」に関しては、一体的に認定されるか、分離して認定されるかにより扱いが大きく異なります。分離された場合、それぞれが個別に類似について検討されます。そのため、分離して認定された場合には「結合商標」は「類似」と判断される可能性が高くなります。
「結合商標」については、「分離されるか否か」が重要で、その判断要素である「結合の強弱」が重要です。
「分離して観察することが取引上不自然であると強く結合しているものと認められない」場合には、(分離して認定され)その一部だけから称呼、観念が生じ得ることになります。
○結合が強い⇒全体観察
×結合が弱い⇒分離観察(要部観察)
となります。分離観察される場合、商標の要部も類否判断の対象となります。
「2段書き」は、実務上多用されている態様です。「2段書き」には大きく分けて2パターンあります。
1つ目は、通常の2段書き(例えば、デザインン的に2段下書きにしている)の場合です。この場合、上段と下段とは原則分離して認定・判断されます。デザイン的に一体等の場合、分離されず全体を一体として認定・判断されます。例えば、2段書きの上段と下段との横幅が同じ場合には、一体として認定・判断される場合が多くなる傾向です。
2つ目は、振り仮名(称呼を特定するための仮名が併記)が振られている場合です。この場合、振り仮名の読みが自然であればその振り仮名の称呼、自然でなければその振り仮名の称呼+自然な読みの称呼が生じるとされています。強引な振り仮名を振っても、その振り仮名に限定されない、ということになります。ここで、造語的な商標については、振り仮名が自然な読みと評価される可能性が高いです。また、英文字商標の場合も同様に振り仮名が自然な読みと評価される可能性が高いです。
類似の判断基準から「類似回避のポイント」をまとめると下記のようになります。