商標法には、「(商標の)使用」に関する規定がたくさんあります。商標実務において、非常に重要な要素です。
・法目的:1条
・使用の定義:2条3項各号
・登録要件:3条1項柱書
・商標権の効力:25条
・商標権が及ばない範囲:26条
・先使用:32条
・侵害とみなす行為:37条
・不使用取消審判:50条
・防護標章:64条・・・・等
まず、商標の使用に関する規定を整理してみると、以下のようになります。
上記について、実務視点ので整理として、出願人・権者の視点と第3者の視点との双方から、事業の流れ(時系列)を意識して整理すると、以下のようになります。
実務的には、出願人・商標権者の立場と、第3者の立場とを、行ったり来たり、その時々で双方の立場・視点で自社・他社の使用を検討します。
更に、特許庁への手続き視点、商標権の効力の視点では、それぞれ以下のような感じになります。
上記整理より、以下が重要ポイントになります。
(1)法目的・定義に関する規定:1条、2条3項各号 等
(2)商標権の効力に関する規定:25条、37条、26条 等
(3)不使用取消審判に関する規定:50条 等
上記(1)~(3)については、以下に簡単に説明します。
まず、法目的(中目的)に、「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を保護する(1条)」ことが規定されています。
また、商標の定義にも、「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」として、使用の概念が含まれています。
そして、使用の定義は2条3項各号に規定されています。使用の態様は、商品、役務にわけて規定されています。
「この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
九 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
十 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為」
もう少しまとめると、下図のようになります(特許庁HPより)。
商標使用の概要は、例えば、商品への使用については以下のようなイメージです。
・標章を付す:1号
・標章を付した物を流通させる(展示、販売、輸出入、ネットを通じて提供等)2号
・広告のための使用(広告媒体に標章を付す+展示+ネット上に提示等):8号
商標の使用は、本質的には「商標の機能を発揮させる態様での使用」を意味します。そのため、商標の機能は重要となります。
商標の機能としては、まず、「自他商品等識別機能(基本)」があげられます。これは基本的な機能となります。そして、商標を「自他商品等識別機能」を奏する態様で使用することで、
「出所表示機能」
「品質保証機能」
「広告表示機能」等の他の機能が発揮される、という流れになります。
商標の使用は、形式的には2条3項各号に規定された態様での使用であり、本質的には上記機能を奏する態様での使用(特に、自他商品等識別機能)ということになります。これは、商標権の効力の項目における「商標的使用」につながります。
商標の使用に関し、商標権の効力に関連する規定をまとめると下図のようになります。
以下、
・商標権の効力(25条)、侵害とみなす行為(37条)
・効力が及ばない範囲(26条)
について、簡単に整理・説明します。
商標権の効力、侵害とみなす行為について簡単にまとめると下記のようになります。
◎商標権の効力(第25条)
商標権者は「専用権」の範囲で商標の使用を独占できる。
専用権:商標「同一」・指定商品・役務「同一」の使用
○侵害とみなす行為(第37条)
商標権者は「禁止権」の範囲での他人による商標の使用を排除できる。
禁止権:商標「同一」・指定商品・役務「類似」
商標「類似」・指定商品・役務「同一」
商標「類似」・指定商品・役務「類似」の使用
上述より、「同一類似範囲」での他人による使用 ⇒ 商標権侵害へ、という流れになります。
簡単な具体例です。
商標権の効力が及ばない範囲(26条)は、例えば、以下の通りです。
・自己の氏名等を普通に使用
・商品の普通名称、産地、品質等:「招福巻事件」等
・慣用商標
・商標的使用でない(①~③:代表的な3類型)
①装飾的な表示
②説明・記述的表示
③書籍等の題号
※その他抗弁:損害不発生の抗弁(あまり適用されない)⇒登録商標が使用されず顧客吸引力等が生じていないので損害発生ない等
商標権が及ばない範囲に関し、「商標的使用」について具体例を説明します。
①装飾的な表示
「ポパイ事件」
・絵はデザインの一部と認識
・製造元等を確認する目印ではない
⇒商標的使用ではない
②説明・記述的表示
「タカラ本みりん事件」
・ラベルに記載された「タカラ本みりん」は原料ないし素材として入っていることを示す記述的表示
⇒商標的使用ではない
③書籍等の題号
「UNDER THE SUN事件 」
・題号はアルバムに収録されている複数の音楽の集合体を表示するものにすぎない。
・出所たる製造、販売元を表示するものではなく、自己の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されている
⇒商標的使用ではない
不使用取消審判については、「継続して三年以上日本国内において、指定商品・指定役務について登録商標が使用されていない場合、不使用取消審判」が請求できる(50条)」旨が規定されています。
一定期間、商標権者等が指定商品・役務について登録商標の使用をしていない場合、登録が取消になる可能性がある旨が規定されています。
不使用取消審判は、「商標権者」「第3者」の双方にとって常に気にすべき規定となっています。
不使用取消審判に関しては、以下に留意すべきです(商標権者視点)。
・「指定商品・役務」について使用しているか?
⇒特に、重要な商品にきちんと使用されているか?!、について定期的に確認する必要があります。
・登録商標の使用(特にこちらが問題)
⇒登録商標と同じ態様で使用されているか?、について定期的に確認し、かつ、
⇒(その後)使用商標が変更されていないか?、についても確認する必要があります。
掲載媒体の種類や商品等のバージョン等により「商標の使用態様が変更」することはありがちなので、登録商標「同一」の範囲はどこまで認められるのか?は非常に重要になってきます。
社会通念上同一(50条1項かっこ書)の範囲であれば、登録商標の使用と認められます。この社会通念上同一の範囲が重要になります(「類似」ではありませんのでご注意)。
社会通念上同一については、具体的には以下の通りです。
①書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標
⇒かなり認められる傾向
②平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標
⇒同一称呼・観念になっているかがポイント(特に、同一観念となっているか)
③外観において同視される図形からなる商標
④その他
・2段併記の商標:上段・下段の観念が同一の場合に一方のみの使用がOKとなる場合あり(※難しい場合が多い。2段併記の商標には出願時・使用時に上記認識+注意が必要)
・インターネットの発達により、例えば、以下のような新たな問題ポイントが生じている点にも留意!
・ドメイン名
・メタタグとしての使用
・リンク(メルマガ)
・越境ネット取引(サーバの場所、言語)