近年、AI関連発明が注目されています。キーワードとしては理解していても、「関係ない」「当分先の話」「様子を見てから考える」「ノウハウだから」「先使用で対応できる」「特に積極対応する必要なし」等のご対応・考えの企業様も多いかと思います、が、本当に大丈夫でしょうか?
弊所としては、AI関連発明について「積極的に特許出願等すべき」と考えています。以下、AI関連発明関する情報等と併せて、その理由をご説明します。
まず、人工知能(AI:artificial intelligence)について、いろいろと定義がありますが、「人工的に作られた人間のような知能(東京大学 松尾豊先生)」という定義が理解しやすいかと思います。
また、人工知能(AI)のタイプ・種類にもいろいろあり、例えば、下記のように分類されています。
・学習型:機械学習、ニューラルネット、ディープラーニング
・知識ベース型:推論システム、知識ベース等
・ファジイ型:ファジイ推論、ファジイ制御
・その他:遺伝的モデル、カオスモデル等
そして、近年のAIが注目された要因として、
・ビックデータへの対応の必要性(データ量が大きすぎて人間では対応できない)
・ディープラーニングの登場
等があると思われます。
AI関連市場も急拡大中です。関連するIoT市場と併せ、市場規模の急速な拡大が予測されると共に、市場規模自体も非常に大きくなると予測されています。
AI技術を活用したビジネスは非常に有望です。
AIへの注目が高まっており、多くの企業がAI関連技術の開発に注力しています。
また、各省庁においても、担当する産業分野において期待されるAI技術について、調査分析、予測や支援等を推進しています。
知財分野においても、AI関連発明の動向・取り扱いについて、注目されています。特許庁においても、多くの技術分野についてAI関連発明の技術動向調査を実施し、権利化の面でも非常に積極的にAI関連発明に対応する姿勢を見せています。
AI関連発明の特許出願(「AI特許出願」という場合があります)件数も急激に増加しています。件数自体は、それほど多いというレベルではありませんが、国内出願の件数が減少しいてるなか、目立って増加しているのは間違いありません。AI特許出願の件数は、2013年から2017年の4年間で、3倍以上の件数になっています。また、2016、17年の件数増加がより高い傾向にあることから、AI特許出願の件数は、今後もより増加していくと予想されます。
また、AI特許出願は、下図のような技術・産業分野についてなされていますが、この技術・産業分野のバランス(出願件数のバランス)も変化してきています。基本的な技術の出願から応用技術、ビジネス関連技術、というように変化してきていると思われます。
また、上記で「AI特許出願の件数が大幅に増加している」とご説明ましたが、実は十分ではありません。下表に示すように、日本のAI特許出願は他の国、例えば、USや中国(CN)に比べると、むしろ少ないといえます。中国のAI特許出願の件数は、日本の6.36倍、USのAI特許出願の件数は、日本の9.33倍です。
日本のAI特許出願の件数は、順調に増加していますが、世界的には遅れをとっている状況です。
AI技術が活用されている理由の一つである「ディープラーニング(深層学習)」に関連する特許出願件数が増加しています。AI特許出願全体に対する「ディープラーニング(深層学習)」に関連する特許出願件数の割合は、約50%となっており(2017年)、今後も増加すると予想されます。
AI関連技術の開発や特許出願において、「ディープラーニング(深層学習)」は検討すべき重要(必須)ポイントとなっています。
下記俯瞰図に示すように、AI関連技術は、各種人工知能基礎技術(一番下の赤いボックス)を利用し、人工知能応用技術(中段の黄色いボックス)を開発し、これらを組み合わせて応用産業技術(AIシステム等、上段の青いボックス)を構築する、という流れで発展しています。
発明視点(解決手段の創出)としては、各解決課題(右側のボックス)を解決するために、各種データを利用して、AI技術を開発し、AIを含む各種システムを構築するという流れになっています。
AI技術の高度化と、AI技術利活用の高度化とにより、高度な作業に対応可能になってきています。
AI関連発明に係る特許出願につき、大きく3ステップ(ブロック)で発明全体を把握することが重要となります(ざっくりですが)。
第1:学習済モデル(黄色いボックス):教師データセットが重要
第2:学習済モデルを含む技術的システム(赤いボックス):特定課題を解決
第3:技術的システムを含むビジネスシステム(青いボックス):アウトプットをビジネスに利用
以下に、特許庁の審査基準等に掲載されている事例を例示します。内容は審査基準等の記載をご参照ください。下記においては、各事例において、上記と同様のボックスを記入しております。ご参考まで。
審査基準に記載の通り、AIを単純に(人の作業等に)適用するものは、特許になりません。
ここで、教師データを変更・加工すると、特許性が向上します。特に、教師データを加工した場合(従来使用されるデータ等を加工した「加工データを教師データ」にする場合等)、従来実施に近い感じでAI関連発明の特許性を向上させることができます。特許性UPのポイントの一つかと思います。
また、下図には記載されていませんが、上記を踏まえ、特許性UPのポイントは、例えば、下記を例示できます。
◎◎新しい解決課題を抽出
⇒使用データを利用、判定・推定・アウトプット、制御内容等、全てに連動
◎ 新しいデータを利用
〇 データを加工して利用
〇 判定・推定・アウトプットの内容工夫(解決課題の範囲に制限)
〇 制御内容の工夫(AI技術コア部分ではない、システム発明として)
以下に、「AI関連発明の権利化等に積極的に対応すべきか?」について検討します。下記①②の視点で検討しています。
①特許出願の視点:特許率、発明の数
②ノウハウの視点:ノウハウ保護と権利侵害・先使用権
①については特許率の推移と発明数の予想、②については外部環境の変化と先使用権の及ぶ範囲等について確認・検討しています。
まず、特許出願の視点として、「特許率」について確認しています。これは、AI関連出願をしたとして「特許になる?」という疑問に対する確認です。
下のグラフに示す通り、AI出願の特許率は、近年では80%程度となっており、十分高い数字であると思います。特許出願活動が無駄にならない状況かと思います。
特許庁HPより
続けて、AI関連発明の「発明数」について検討・予想しています。AI関連発明は、特定の「課題」をデータを利用してAI技術で解決する発明(「解決手段」)です。データを利用して課題を解決する点でIoT関連発明と同様ですが、AI関連発明においては、下流の制御等に特徴があるものではなく、「課題の内容(アウトプットに連動)」と、「データの種類・組み合わせ・加工内容等」とが重要です。AI関連発明においてはは、「課題」と「データ」とが特に重要であるといえます。更には、AI関連発明においては、「課題」が最重要であり、「データ」の種類等は、「課題」の内容に従属するといえます。
上述より、AI関連発明数(発明数)は、「課題」の数と、「データ」種類の数、これらの組み合わせの数によって上限があり、思っているよりも発明数が少ないと予想されます。また、データ種類数も意外に少なく、有効な組み合わせは更に少ないのではないかと考えています。
つまり、「課題」ごとに実際に優れたAI関連発明(重要性や実施性より)は、意外と少ないのではないかと感じております。
上述より、「発明数」には制限があり、占有される前に対応すべき、と考えております。
AI関連発明について積極的な特許出願活動をためらう理由の一つとして、「ノウハウ」だから、という理由があると思われます。AI関連発明における教師データや各種判定等に利用する入力データは、「ノウハウ」としてクローズにしている場合も多く、「ノウハウ」に関するものなので「特許出願しない」、または「積極対応しない」、もしくは「どうするか様子見」、という場合も多いかと思います。
しかし、外部環境の変化や経営層からの指示により、「IoT化」「AI活用」「スマート化」「デジタル化(DX)」等は、否応なく進むと予想されます。その際に、現場の「IoT化」「AI活用」「スマート化」「デジタル化(DX)」を進めるなか、「ノウハウ保護・クローズ」の実効性があるか、逆に不利益になることはないか等、注意・検討が必要であると思います。
下記においては、「工場」を「スマート工場化」した場合について、「ノウハウ」の保護、権利侵害や先使用権の及ぶ範囲について簡単に検討しています。
まず、「ノウハウ」をクローズした状態において、商品改良や工場ラインの改善・拡張した場合、他社特許がなければ全く問題が生じず、他社特許があった場合でも「先使用権(抗弁)」により継続実施が可能となり、問題は少ないと思います。
ただし、上述の通り、「IoT化」「AI活用」「スマート化」「デジタル化(DX)」等が大幅に否応なく進む外部環境のなか、単なる拡張等ではなく、「スマート工場化」が進み、「AI技術を活用」した製造・管理・運営システムの構築が進む(指示される)ことが予想されます。
ここで、従前と同様のデータ等(ノウハウ)を利用して新たにAI技術を含む製造・管理・運営システムに変更しようとする際、他社AI関連特許が存在している場合、特許権侵害になり、変更・実施ができない可能性があります。「先使用権があるので大丈夫」とはいかない可能性が高いです。仮に従前と同様のデータ・組み合わせを利用する場合でも、変更予定のAI技術を利用したシステム等に関する他社AI特許が存在する場合、このAI特許に対する先使用権を有する(先使用権の範囲)と主張するのは難しいと思われます。現場としては同様のデータを利用して製造・管理・運営等するので同じことをしている感覚かと思いますが、実際はAI技術を利用している点等も含め、全く別の技術・発明を実施することになる点に注意する必要があります。結果、他社のAI関連特許権の侵害になる可能性があることに注意する必要があります。
上記を簡単にまとめると、以下のようになります。
<外部環境・知財状況:AI化の大きな流れ>
・国内外において、AI技術開発・事業化は急速に進んでいる
・AI関連発明の特許出願等は増加傾向+近年急増
・日本のAI開発等は、海外に比べ、近年では後れを取っている状況
<検討①>特許出願の視点:特許率・発明数
・特許率は十分高い、特許庁もAI関連発明への対応に推進的
・「課題」「データ種類・組み合せ」の数には限界あり
⇒「発明数に限界あり」:占有される前に対応すべき
<検討②>ノウハウの視点
・デジタル化、スマート工場、AI化の流れ:先使用権の範囲を超えた変化
⇒ノウハウはAI化に際し「先使用権で保護されない可能性大」
⇒ノウハウの出願(AI化)検討すべき
以上より、AI関連発明について、
「積極的に特許出願等すべきか?しなくても良いか?」については、
⇒「積極的に特許出願等すべき」と考えます。
もちろん、各種戦略・活動やノウハウ等の扱いとのバランス調整になりますが、対応しなかった場合のデメリットが大きいため、その点だけみても、一定以上の対応が必要かと思います。また、積極対応して無駄になる場合もあると思いますが、その場合のデメリット(最悪でも「権利行使が上手くできない⇒出願活動が無駄」レベル)についても、対応しなかった場合のデメリットよりも遥かに小さいと考えます。
AI関連発明への対応に関し、IoT、デジタル化、スマート化等を含め、各種調査分析、戦略立案、組織体制案、その他各種コンサル等、いろいろと柔軟に対応しております。ご質問、ご依頼等がございましたら、お気軽にお問合せください。
AI関連出願を多数出願すべき、というスタンスではありません。分野・企業に適した対応・戦略の立案をご支援したいと考えております。