商標情報および特許情報を利用した新商品予測に関する考察

 本研究は,事例分析を通じて,商標情報および特許情報を利用した新商品予測について検討することを目的とする。具体的には,本研究は,商標情報から新商品に関する情報を抽出等すると共に,該抽出等した情報を利用して新商品に関連する特許情報を検索することによる新商品予測について検討することを目的とする。

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商標情報および特許情報を利用した新商品予測に関する考察

 

(IPNJ国際特許事務所)乾 利之・(東京工業大学 イノベーションマネジメント研究科)田中 義敏

 

How can we predict new product by using trademark information and patent information?

 

IPNJ patent attorneys office Toshiyuki, Inui; Graduate School of Innovation Management, Tokyo Institute of Technology Yoshitoshi, Tanaka

  The purpose of this research is to examine the new product prediction by using the trademark information and the patent information. It was found that the information useful in new product predicted can be extracted from the trademark information.  In addition, we examined how to search for patents related to new products by using the trademark information.  The information extracted from the trademark information can be expected to be utilized as a keyword.  Furthermore, designated goods and services were found to be converted to IPC information.  Consequently, it was found that keyword and IPC search using the information extracted from the trademark information is possible.  By using the trademark information and patent information, it is expected that it is possible to highly accurate new products prediction.

1. 背景および研究目的

知財情報は,各業界の動向,各企業の動向等の分析や将来予測に利用されている。

知財情報のうち,特に特許情報の利用が進んでいる。特許情報は,特許法の保護対象である発明(技術)の累積的進歩という面から,例えば,特定技術分野における出願同士の関係を見出しやすく,技術動向やその継時的な変化を把握するのに役立つ等の理由により,利用が進んでいる。

これに対し,商標情報の利用は不足していると感じられる。商標情報は,商標法の保護対象が創作物ではなく選択物であるために(累積的進歩という面がなく),出願同士の関係が見出し難い等の理由により,利用が進んでいないと考えられる。ここで,商標権の利用率は特許権の利用率よりも高い [1]こと等からも,商標と事業との関連は強いと考えられる。

 また,商標情報は,事業を担当する部署が新商品について検討した結果を示す情報であり [2] [3]、これから上市する新商品等に関する事前情報でもある。つまり,商標情報は,各企業の事業活動を予測するための情報,特に新商品を予測するための情報として有意義な情報であるといえる。

 しかし,商標情報に含まれる情報量は制限されることから,商標情報から抽出できる新商品予測に役立つ情報は特徴的な効果やコンセプト等の限られたものになり,新商品の構成や詳細な機能に関する情報は抽出することが困難であると考えられる。ここで,商標情報から抽出される情報だけでも十分に有用であるが,更に新商品に関連する特許情報を検索できれば,新商品の構成や詳細な機能の予測が可能となる。

本研究は,事例分析を通じて,商標情報および特許情報を利用した新商品予測について検討することを目的とする。具体的には,本研究は,商標情報から新商品に関する情報を抽出等すると共に,該抽出等した情報を利用して新商品に関連する特許情報を検索することによる新商品予測について検討することを目的とする。

 

2.研究手法

 事例分析の対象企業として,「商標出願動向調査報告書(概要) 企業のブランド構築に着目した商標の出願・活用に関する状況調査 平成23年度(特許庁)」においてグローバル企業30社に選ばれている化学系企業のA社を選定した。そして,特許電子図書館(IPDL)利用して,A社が2008年~2012年に出願した商標出願に関する情報を取得し、取得した商標情報から新商品に関する情報を抽出することを試みた。具体的には,指定商品・役務および商標を以下の視点で分析した。

指定商品・役務については、「追加指定商品・役務」の抽出を試みた。追加指定商品・役務は,特許庁が提供する区分(類)表において,上位商品・役務として列挙されている商品・役務ではなく,中位,下位として列挙されている商品・役務や,区分表に含まれない新規な商品・役務をいう。審査時における類似範囲,登録後の不使用審判による取消,係争時における権利範囲等の実務における要請より,出願人は,指定商品・役務に,実際に当該商標を使用する商品・役務を含ませる。つまり,追加商品・役務は,出願人が使用する意思が特にある商品・役務であるといえる。上述より,追加指定商品・役務を抽出することで,新商品等の種類を特定する情報の抽出が期待される。

商標については,2012年に出願された商標出願を,示唆系,非示唆系に分類することを試みた。商標は,登録性の高い造語等に加え,機能,用途,効果,品質等を示唆するタイプある。また,ブランド商標+商品名商標という商標も多く存在する。そのため,新商品に関する情報の抽出を視点として,商標を示唆系(①②),非示唆系に分類する。示唆系①は,特許情報との連携を想定し,機能型,用途型,効果型,対象者型,構成型,分野型に分類される。示唆系②は,ブランド商標を含む商標が分類される(示唆系②は,直接的な示唆ではないので,予備的な分類とする。)。また,非示唆系は,造語,キャラクター,イメージ,コーポレートブランドに分類される。

上述の視点で商標情報から抽出された情報は,新商品の特徴や効果等を予測する情報として有意義な情報である。しかし,商標や指定商品・役務に含まれる情報量に制限があることから,抽出できる情報の内容には限界があり,新商品の構成や機能の詳細についての情報を抽出することは困難である。

ここで,商標情報から抽出された情報をキー情報として利用することで新商品に関する特許情報を検索することができれば,新商品の構成や機能等の詳細について予測することができると考えられる。更には,新商品に関する情報が直接的に抽出されない商標情報に関しても,特許検索に利用できるキー情報を得る方法を検討し,商標情報の利用について更に検討する。

  

3.分析結果および考察 

図1に示すように,全指定商品・役務種類における追加商品・役務の割合は,52.275.0%である。全指定商品・役務種類のうち,52.275.0%の指定商品・役務は,区分表における中位商品や下位商品,区分表に記載されてない新規商品,機能等を追記した新商品である。

 また,表1により,追加指定商品・役務を,区分表における中位商品,下位商品,区分表に記載されてない新規商品,機能等を追記した新商品(一般的な指定商品・役務に機能等が追記された商品・役務)に分類した結果を示す。分類結果は,機能等追記商品が54.21%,新規商品が30.89%,下位商品が8.21%,中位商品が6.70%である。

 

 ここで,中位・下位商品からは,新商品の種類を特定する情報の抽出が期待される。新規商品・機能等追記商品からは,新商品の種類を特定する情報に加えて,機能等の特徴に関する情報の抽出が期待される。本事例においては,機能等追記商品および新規商品の割合が多いので,A社に関しては,追加指定商品・役務から新商品に関する情報が多く抽出できると考えられる。

 また,表2により,2012年の商標を示唆系/非示唆系に分類した結果を示す。2012年の商標において,示唆系(示唆系①)の割合は32.22%であり,非示唆系の割合は67.78%である。示唆系(示唆系①)の詳細分類それぞれの割合は,機能型が19.63%,用途型が4.81%,効果型が1.11%,対象者型が0.37%,構成型が6.3%,分野型が0%である。非示唆系の詳細分類それぞれに割合は,造語が5.56%,キャラクターが1.85%,イメージが55.56%,コーポレートブランドが4.07%,その他が0.74%である。

 

ここで,示唆系②は,直接的な示唆ではないので,予備的な分類として扱われているが,ブランドに関する情報を収集することで,間接的に新商品に関する情報を取得できるので、示唆系①と同様に扱うことが可能である。示唆系②のうち示唆系①と重複しないものを含めた示唆系全体の割合は39.63%となる。

続けて,商標情報から抽出された情報をキー情報として利用することで新商品に関する特許情報を検索する方法について検討する。また,併せて,新商品に関する情報が直接的に抽出されない商標情報に関して,特許検索に利用できるキー情報を得る方法を検討する。

 まず,追加商品・役務から抽出される情報は,例えば,商品種類を特定する情報や,特徴的な機能に関する情報である。示唆系①に分類された商標から抽出される情報は,例えば、新商品の機能,用途,効果,対象者,構成,分野等の情報である。示唆系②に分類された商標から抽出される情報は,既存ブランド群の特徴,機能,コンセプト,商品種類等の情報である。これら抽出された情報は,新商品を特定する情報であり,特許検索において,関連する特許情報を検索するための好適なキー情報となる。上述より,追加商品・役務および/または示唆系の商標から抽出された情報を「キーワード」等として利用して特許検索をすることで,当該出願人における新商品に関連する特許情報が抽出されることが期待される。

 次いで,追加商品・役務を含まない場合についても検討する。本検討においては,一般の指定商品・役務と,IPC分類(国際特許分類)とを紐付けできるかを検討する。言い換えると,商標情報の一部である指定商品・役務情報を,特許検索のキー情報となるIPC分類に変換できるかを検討する。指定商品・役務とIPC分類(国際特許分類)とを紐付けすることができれば,追加指定商品・役務を含まない場合でも,一定程度関連する特許情報を検索可能となることが期待できる。また,上述の抽出された情報(抽出キー情報)と併せて利用することで,特許情報検索の精度を向上させることができる。ここで,図示しないが、A社の商標出願において出現数が多い指定商品・役務について検討した結果,それぞれに対応するIPCが見出されており,指定商品・役務とIPC分類との紐付は可能であると考えられる。

 

 図2において,上記で検討した商標情報および特許情報を利用した新商品予測方法についてまとめる。追加商品・役務に関する分析や,示唆系・非示唆系の分類において抽出された抽出キー情報は,直接特許検索に利用可能(例えば,キーワード検索に利用)である。また,キー情報が抽出できない商標においても,商標情報(例えば、指定商品・役務)を特許検索のキー情報に変換することで,新商品に関連する特許情報を検索可能となることができると期待できる。本方法により、新商品に関する詳細な情報を得ることができ,より精度の高い新商品予測が可能となると考える。

4.参考文献

[1]     特許庁, "知的財産活動報告," 平成25. [Online]. Available: https://www.jpo.go.jp/shiryou/toukei/tizai_katsudou_list.htm. [Accessed 19 7 2014].

[2]     特許庁, "-企業における個別商品・役務等に係る商標出願戦略等状況調査-(要約版)," 商標出願動向調査報告書, p. 14, 平成19年度.

[3]     特許庁, "企業のブランド構築に着目した商標の出願・活用に関する状況調査," 商標出願動向調査報告書(概要), p. 20, 平成23年度

 

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